ダイビングでコンタクトレンズは良いか悪いか?
ダイビングでコンタクトレンズは良いか悪いか?
はじめに
近年、オープンウォーターを受講される方の2人に1人がメガネ、あるいはコンタクトをされた目の悪い方となってきておられます。ダイビング用マスクはメガネ同様、度付き対応できますので度付きマスクをレンタル、あるいはご購入いただくことで解決することが出来ます。
そんな中、“コンタクトレンズでダイビングしてもよいですか?”というお問い合わせをいただくことも多いです。実はこの質問、相談するイントラさんによって回答が違ったりします。私自身、独自の見解を持っています。(笑)以下にその見解紹介していきたいと思います。
医学的見地からみたダイビング中にコンタクトレンズを装着することの是非
スクーバダイビング中にコンタクトレンズを装着するということは、高圧下でコンタクトを装着することに対する是非を確認しなければなりません。このことに関しては『酸素透過性のコンタクトレンズならば使用可能』という回答を得ています。これはダイビング指導団体PADIの「THE ENCYCLOPEDIA OF RECREATIONAL DIVING」という書物の中に記載されております。近年のコンタクトレンズはほとんどが酸素透過性のものですので、この点に関しては問題ないといえましょう。
但し、人によっては目に対する負担から生じる傷害や感染症を懸念されるかたもいらっしゃいます。日常生活よりもダイビング中の方が、目に対する負担が高いのは事実です。何よりコンタクトレンズ自体をつけてない状態よりもつけている状態の方が目に対する負担が大きいことも事実です。本来コンタクトレンズ使用者は定期的に眼科検診を行なうことを義務付けられています。(実際行かれていない方の方が多いようですが^^;)ダイバーに限らずコンタクト使用者は違和感がなくても定期的に眼科検診に行くことをお勧めします。
注意!
ダイビングが可能なコンタクトレンズは、ソフトコンタクトレンズのみで、ハードコントクトレンズは不可です。ハードコンタクトレンズを装着してのダイビングは、浮上時にレンズと角膜の間に気泡ができ、トラブル(かすむ、眼痛、外れるなど)の原因になるためです。
このことは以下のurlにて掲載されています。
(DAN USA) http://www.diversalertnetwork.org/medical/articles/article.asp?articleid=16
コンタクトがお勧めできない理由
医学的にコンタクトレンズはOK、となればそれでよいのでしょうか?答えは否、です。ダイビングでコンタクトレンズをお勧めしない一番の理由はマスク内に水が入ってきた時の危険性です。コンタクトレンズは決して安価なものではありませんので、マスク内に水が入ってきた時に流されてしまわないかと言う不安からパニックになってしまう可能性があるからなのです。安全なダイビングは小さな不安要素を事前に取り除いていくことから始まります。コンタクトで潜っているダイバーが仲間内にいることは当人以外のメンバーが気を使う要因にもなってしまいます。さらにオープンウォーターの講習ではマスククリア、マスク脱着、マスク無し呼吸、マスク無し移動、などマスク内に水を入れるスキル練習があります。コンタクトレンズを海水にさらしてしまうことはよくありませんし、不安やストレスを生じる原因になってしまいます。このことが事故やトラブルに発展してしまう可能性が少なからずあると考えられます。
コンタンクトレンズで潜る場合のメリット
反面コンタクトレンズで潜ることのメリットというのはあるのでしょうか?度付のマスクを買わなくて良くなるからコスト的に安い、というようなことだけではありません。(笑)
まず、メガネから度付マスクに交換する面倒がありません。さらにメガネや度付マスクに比べ陸上における視野が常に広く保てます。DAN JAPANによりますと、ダイビング保険の適用で最も多いのが岩場で転んで怪我をしたことだそうです。視野の狭い目の悪い人にとって、岩場などでの足場の確保は度付マスクをしながらとなることが多く、視界が狭いこの方法は不都合な場合が多いようです。また、ボートダイビングなどでエキジット直後すぐに器材を整理・整頓しなければならない時にもメガネを探したり、度付マスクをつけたまま、というのは効率の悪さがあります。コンタクトレンズならば、不安定な足場であっても安定して視野を確保できるというメリットがあります。何より日常生活において、コンタクトレンズを使用されてる方であれば、メガネや度付レンズよりも、コンタクトレンズの方が安心感がある人もいらっしゃいます。
コンタクトレンズで潜る場合のガイドライン
コンタクトレンズで潜ることに対しては賛否両論で明確な回答は少ないようです。どうしてもコンタクトレンズで潜りたい人のために、私なりにガイドラインをつくり、以下にご紹介させていただきたいと思います。
1)コンタクトレンズは使い捨てを使用しましょう
前述の水が入ってきた時、流されてしまうかもしれないというストレスを回避する為になくしても安価な使い捨てコンタクトレンズを使用しましょう。近年の使い捨てコンタクトレンズは酸素透過性のものとなっています。なお、ここで言う使い捨てとは1日使い捨てのことで、2週間タイプではありません。理由は以下のようなご意見をいただいた為です。
以下はあるDDネットにもご参加されている眼科医の方からDMでいただいた貴重なご意見です。
———————————————————————-
使用するのは1日の使い捨てだけにしましょう。
これは手が汚いとか海水が汚いとかの問題ではありません。
「高圧環境下では微生物が思わぬ活動性を示すことがある」ためです。
例えば、普段は無害なバクテリアでも30m潜ると有害かもしれない。
つまり「何がおきるか分かっていない」訳で、
これを1日200円で回避できるなら、
わざわざ何千円もするレンズを危険にさらす必要はないじゃないかということです。
2週間の定期交換レンズを2週間の使い捨てと言って売っている業者を見かけますが、
これも使い捨てではないので海で使うのは避けましょう。
もちろんdivingが終わって破棄してしまうのであればなんの問題もありませんが
———————————————————————-
以上のようなリスクも考えられますので当サイトで言う“使い捨てコンタクト”とは“1日使い捨て”のものが推奨されるとご認識下さい。乱視等で2週間定期交換タイプしか対応できない方は、ダイビング終了後には新品と交換するようにしましょう。
2)コンタクトレンズの使用は水なれ度の高い方か、あるいはダイビングに慣れてからにしましょう
どの程度で水なれしている、あるいはダイビングに慣れた、といえるのかは難しいところですが、ダイビングでコンタクトレンズを使うのは、少なくともマスククリアやマスク脱着を不安感なくできる状態であることが望ましいと思います。
3)コンタクトレンズの使用歴の長い人のみにしましょう
コンタクトレンズでダイビングを行なうことは、ダイビング歴ではなくむしろコンタクトレンズ歴が長い人が行なうようにしましょう。メガネの経験しかない人がダイビングを始めると同時にコンタクトレンズを始めるのは望ましくありません。
4)眼科の定期検診を受けましょう
コンタクトレンズを購入するには眼科検診を受けなければなりません。特に使い捨てコンタクトの場合は現在購入毎に検診が必要となっています。特に推奨させていただきたいのはコンタクトレンズを眼科で購入することです。処方箋を持っていけば購入できるようなメガネ屋さんではなく、しっかりとした眼科検診の上で購入させてもらえる眼科でコンタクトレンズを購入するようにしましょう。近年のコンタクトレンズの性能が上がっているとはいえ、ダイビングはコンタクトレンズを使用するのにふさわしい環境下とはいえません。眼科の定期検診を受けた上で、自分にとって支障がないかどうかを定期的に管理しましょう。
5)使用するかどうかの判断は注意深く決定しましょう
コンタクトレンズを使用していた時にマスク内に水が入り、パニックとなってしまった...こうなってしまった場合の責任は全てコンタクトレンズを使用した自分の判断にあります。また、その人が悪環境下で目を酷使しても大丈夫なのかの判断はダイビングのインストラクターにはできません。医学的な判断が出来るのはお医者さんだけです。コンタクトレンズの使用についてはご自身の眼科検診の結果も参考にしましょう。(人によっては角膜の弱い方もいらっしゃいますので)
先日ある新聞に「コンタクトレンズ使用者の目の感染症急上昇」という記事がありました。原因は寝たままのコンタクトレンズの使用や洗浄の不十分からきているとのことです。ダイビングの環境下は日常生活に比べ目に負担がかかることは明白です。そのことを十分考慮に入れてから、使用するかどうかを決定して下さい。
(追記)
ダイビング初心者がコンタクトレンズを使用する場合の留意点
実は、オープンウォーター講習でコンタクトレンズの使用は不可ではありません。「マスククリア、マスク脱着等のスキルを行なう際は、目をつぶって行なう」という方法を指導団体は認めています。
これまで私はイントラとしてオープンウオーター講習で講習生がコンタクトレンズを使用するのにはあまり気が進みませんでした。それはやはり安全面で不安が残るためです。しかし、ダイビングというものはレジャーであり、より多くの人に気軽にやってもらえる環境を作るという意味で、度付きマスクを購入することの経済的負担や、常時コンタクトしか使用していない人にとってのメガネや度付レンズの視野の狭さがダイビングに対する気軽さのマイナス要因になっていないか、ということを最近では考えるようになりました。コンタクトレンズの使用を認めないのは、安全の為と称したイントラ側の怠慢ではないか、とも感じるのです。また、自身が実際にコンタクトレンズでダイビングを行なってみて、その快適さ、便利さ、そしてこれまで言われていたような危険性を感じないことがわかり、このことも別途ガイドライン化することにしました。眼の良いイントラには目の悪いダイバーの実際の心理状況はわかりませんでしょうし。以下をご参照下さい。
1)コンタクトレンズが外れても大丈夫であることを認識しましょう。
コンタクトレンズが外れる、といっても両眼が外れる、というのは稀なケースであると思います。実際、片目だけ外れてしまったことは私も過去に2回ありましたが(そのうち1回はエントリー直後)、両眼が外れたと言うことは1度もありません。また、コンタクトが外れると全く何も見えなくなるかのように思われがちですが、水中ではものが近くに見えるため、近視の方でも結構視力が確保されます。私は裸眼で0.03で、度無しレンズ、コンタクトレンズ無しで潜ったことがありますが、落ち着いて行動すれば問題ない程度は見えます。細かな魚の識別はわかりませんが、バディの位置やハンドシグナル程度は十分理解できます。できれば裸眼でのどの程度見えるかを経験しておきましょう。もしもストレスに感じるようであればコンタクトレンズが外れた時点でダイビングを中止(あるいは中断)すればよいでしょう。
2)インストラクターはコンタクトレンズダイバーへの対応方法を習熟しましょう。
コンタクトレンズダイバー=不可!という考え方を改め、コンタクトレンズを使用するダイバーへの留意点を理解するようにしましょう。例えばオープンウォーター講習における全浸水マスククリアの場合、目をつぶってマスククリアを行なわせます。その際、不安感が増大しないようにインストラクターやアシスタントが講習生の体の一部に触れていてあげればよいと思います。(これだけで講習生側は大きな安心感が生まれます)コンタクトレンズを不可とするのではなく、インストラクター側の講習方法に工夫を加えることで安全を確保しましょう。実はコンタクトレンズを使用した講習生がいる場合、インストラクター側の配慮こそ安全確保のためにとても大切になるのです。コンタクトでのダイビングが可となればダイビング業界自体の間口が広がり、ビジネスチャンスが増えるという考え方もできます。
3)コンタクトレンズでのダイビングが不安な方はやめておきましょう
あくまでも自分が「コンタクトレンズの方が安心感があるから」あるいは「コンタクトレンズの方がなれているから」と言う方が行なって下さい。最終的な決定は本人です。不安がある方はやめておきましょう。
4)マスクは自分の顔にあったものを使用しましょう
コンタクトレンズを使用するのですから、マスクは自分の顔にあったもの、使い慣れたMY器材(マスク)を使用しましょう。レンタルのマスクは推奨できません。
5)コンタクトレンズを使用していることをガイド、インストラクターへ事前に伝えましょう
コンタクトレンズが外れた、調子が悪い等の際、ツアーリーダーがすぐに理解・対応できるようにコンタクトレンズを使用していることをガイド・インストラクターへ事前に伝えておきましょう。
6)眼の調子が悪ければすぐにダイビングを中止しましょう
ここで私が言う「divingに1日の使い捨てコンタクトレンズを使うのは可である。」というのは、あくまで「今のところ大きなトラブルは確認されておらず、メリットがデメリットを上回っている。」ということです。ユーザーはその事をよく理解したうえで異常を感じたらすぐに使用を中止するべきです。これは他のトラブルの場合と同様です。無理せずそのダイビングを中止する勇気を持って下さい。
※現時点でコンタクトレンズの使用を認めている明確な資料はUSAの資料を参考にしています。「使っても良い」という言葉の裏には、日本では「安全だと確認されている」という意味にとらわれがちですが、USAでは「危険だとは確認されていない」と言う意味であることが多いようです。今後「使っても良いといわれて使ったら事故に遭った。」といって文句を言う方が出てきたら、おそらく「divingにコンタクトは使ってはいけません」となる可能性があります。そのためにも使用される方の判断はとても大切になります。特に眼に異常が生じた場合は即座にダイビング、及びダイビングでのコンタクトレンズの使用を禁止して下さい。人の眼(身体)には個人差がありますので全ての方が安全とは限りませんので。
※※使い捨てコンタクトレンズを使用していたことがトラブル、パニック、事故の原因となったという事例を私はまだ持っておりません。もしこのような体験をお持ちの方は参考とさせていただきたいのでぜひお聞かせ下さい。
最後に
ダイビングにおけるコンタクトレンズ使用の是非を議論するよりも、「どうすればコンタクトレンズでも安心してダイビングを行なうことができるか」を議論する方が良いのではないか、最近私はそのように考えるようになってきました。残念ながら私も含め日本人は目の悪い人が多すぎます。もしもそれがダイビングをしてみようと思っている人の意欲をそぐものであれば、それはとても残念なことです。コンタクトレンズを使用しても安心してダイビングが行なえる環境、方法を考えることは、イントラの能力向上、あるいは安全を考えることにもつながるのではないでしょうか。
とはいえ、もしもコンタクト使用ダイバーがその後ダイビングを積極的に続けていくことになったのであれば、バックアップとして度付マスクを購入しておくことをお勧めします。ちょっとした違和感があれば直ぐに次のダイビングから度付マスクで対応できるよう、柔軟な準備をしておくことをお勧めします。
※このコラムは2001年に書いていたものをアーカイブよりコピペしてきたものです。最新の情報ではない旨をご了承下さい。2017.3.14ガク
公開日: